2013年7月29日月曜日

不安で眠れないなら天王補心丸(正式名:天王補心丹)

天王補心丸(てんのうほしんがん)、正式な処方名は天王補心丹(てんのうほしんたん)です。
国内で2、3社が販売していますが、天王補心丸の名前で販売しています。
効能効果には“体質虚弱な人の次の症状:不眠、不安感、肩こり、息切れ、動悸、口渇、便秘”とあります。
だいたい合っていますが、これでは何の薬か分かりにくいかもしれません。
簡単に言うと不安や焦燥感があり動悸もしやすい人の睡眠障害のお薬です。
そして、陰虚という体の偏りが根本にありますので、手や足が火照ったり、のどが渇いたり、寝汗をかきやすかったりします。
陰虚の中でも心陰虚という状態で、五臓の中の心(しん)が消耗・衰弱している事によって症状が起きています。

心陰虚の原因はストレスであったり生活習慣であったり、慢性的な病気だったりします。
心と心陰虚については別サイトでも解説しています。
  ・心の働き
  ・心血虚と心陰虚
天王補心丸が向いている不眠は、
寝付きが悪い・眠りが浅い・よく目が覚める・夢が多いと言ったタイプですので、
深い睡眠がなく、一晩中眠っているのか眠っていないのか分からないような不眠です。
天王補心丸のような滋養安神剤は、衰弱した心を滋養して、陰陽バランス(自律神経のバランスといっても良いかもしれません)を整えて精神を落ち着かせ眠れるようにしてくれます。
一時的ではなく、長期間続いている不眠に向いているでしょう。


2013年7月23日火曜日

熱中症の漢方薬:生脈散

今年は梅雨明けが早く、連日の猛暑が続いています。
この季節、特に心配なのが熱中症ですね。
熱中症は体内の熱がこもってしまい、身体の調整機能が失調することによって起きます。
この季節の不要な体内の熱は汗によって体の外へ放出されます。
この時重要なのは、水です。
漢方では人間の体内にある水を二つに分けて考えます。
一つは津(しん)、体にとって必要な大切な水です。
もう一つは液(えき)、これは基本的には不要になった排出される水。
あるいは体内で悪さをしている水(水毒)です。
汗は基本的には液です。
ところが、あまりに暑いと捨てるべき液が不足し、津までが排出されてしまいます。
傷津あるいは津液不足という状態です。


この時、単に水分を補給すれば良いというわけではありません。
むやみに水分補給すれば液ばかりが増えてしまい、相対的に津が不足してしまうことで不調になることもあります。
不要な液を増やすことなく津を増やす事が大切です。津を増やす事を生津と言います。
この生津を目的とした漢方処方が生脈散、あるいは生脈宝と呼ばれる薬です。
熱中症を気にして必要以上に水分を摂ると食欲がなくなり、かえって夏バテになります。
暑い場所での作業、スポーツをする人や、熱中症を心配する人は水分補給と一緒に生脈散を飲まれると良いでしょう。

2013年7月16日火曜日

抑肝散:もともとは子供の薬だよ

抑肝散(よっかんさん)です。
一般薬(OTC」の効能を見ると、
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
これは特に気になるところはないです。
この通りというか、これ以外の使われ方をしていることのほうが気になります。
まず、抑肝散を用いる状態は肝陰虚という状態です。
肝は精神的な問題を処理しているところと考えています。
陰虚ですから、肝の働きよりも肝そのものが衰弱している状態を指します。
“口や喉の渇き・身体の熱感・ほてり・のぼせ・ねあせ”と言ったことが特徴です。
つまり、まったく冷えていない、冷えを感じない体質であることが重要です。

肝が弱っているために、相対的にイライラしたり、落ち着かないといったことが起きます。
まだ身体が完成していない子供では、肝も未熟です。
そのために疳の虫、夜泣きといったことが起こります。
本来はそのためのお薬でした。
ですが、肝陰虚の状態であれば大人でも、イライラや不眠に効果があります。
まとめると、“抑肝散が向いているのは、全く冷えを感じない、冷え性ではない人で、
不眠症でも寝てしまえば途中で起きることはあまりなく、
疲れやすく虚弱な方だけど、足腰がだるいといったことはない。
イライラ感も周りに当たるような激しいものではない。”
こんなところでしょうか。
それから、抑肝散加陳皮半夏(よっかんさんかちんぴはんげ)と言う処方がありますが、抑肝散に小半夏湯を足したものです。吐き気や胃の不快感を伴う場合に使います。
そうでなければ、基本的に構成生薬が少ないほうが良く効きますので抑肝散を求めたほうが良いでしょう。
それから、アルツハイマー症に良いと時折話題になりますが、漢方的、中医学的に根拠は見いだせません。このことはまた別のところに書きます。

2013年7月2日火曜日

何かと誤解の多い“防風通聖散”

お待たせしました今回は防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)です。
おそらくOTCの漢方薬では一、二を争う売上を誇ってきたと思われる処方です。
誤った使われ方も非常に多い処方です。
メタボの薬という捉え方は間違っていません。ただ、メタボなら誰でもという訳でもありません。
某メーカーの責任が大きいと思いますが、この薬は便秘薬ではありません。市場の大きい便秘薬であるかのようなイメージで宣伝されていたのは驚きでした。
便秘薬として漫然と続けている人がいたら即座にやめてください。どなたでも長期間の服用に耐えられる薬ではありません。
さて、効能ですが、
“体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)、肥満症”
例によってまた体力・・・から始まっています。
体力が充実していれば結構なことです。
まぁ今回は大目に見て、疲れやすいとか、弱っているという事がないということで理解してあげましょう。
太っていること以外は特に異常を感じていなくていいです。
下痢症の人でなければ構いません。
食欲だけは異常にあるはずです。
平たく言えば元気なおデブさんを痩せやすくしてくれるお薬です。
高血圧や肥満に伴う・・・・・・便秘、は無視していいですね。動悸がするほどの高血圧、肥満だったら病院行ってください!

太るか痩せるかは、食べた量と運動量(代謝)のバランスです。
食べる量を減らすことは何より重要です。
しかし、人一倍食欲のあるこのタイプの人達が食べる量を減らすのは大変です。
同時にエネルギーを消費することも考えたほうがいいでしょう。
ここで、脂肪とは何かということです。
化学のお好きな方なら脂肪を燃やせば何になるかはご存知かと思います。
脂肪は炭素(C)と水素(H)と酸素が少々でできています。
脂肪が燃えるということは、
C-H+O=CO2、H2O
二酸化炭素と水になるということです。


食欲が減り、脂肪の燃焼が早まれば痩せます。
防風通聖散が行なっているのはまさにここのところです。
食欲旺盛な過剰な胃腸の働きを、冷やすことで抑えます。
(食欲が無い人が防風通聖散を飲むと胃腸を壊します)
脂肪の燃焼を助けるために二酸化炭素と水の排泄を助けます。
そのために汗をかきやすくし、尿を出しやすくします。

まとめると防風通聖散には、食欲が旺盛で、余り運動しないで太ってしまっている元気な人の、
胃腸を冷やして食欲をなくし、脂肪代謝によって生じる二酸化炭素と水の排泄をスムーズにする働きがあります。